大人になってから、新たな言語のネイティブになるのは無理だ、と多くの人が信じている。大人の脳は赤ちゃんや幼少期とは異なるとか、言語脳は幼少期までしか獲得できないとか、それらしい科学的証拠が示された記事を読んだことがある。しかし、かつて脳の神経細胞は減る一方と信じられていたが、今では一生に渡って増やし続けられることがわかっている。「幼少期でないとネイティブになれない」という説もいつか覆るかもしれない。
脳に原因を求める以前に、ネイティブ言語と第2言語では、習得方法が異なる。ネイティブ言語の習得方法で、第2言語を学べば、何歳からでもネイティブになるかもしれない。ネイティブ言語の習得方法とは、赤ちゃんが言語を覚える方法だ。
人間は生後、半年〜1年くらいで「ママ」などの単語を発するようになる。1〜2歳になると、発する単語数が急激に増え、2歳くらいになると、「ママ、抱っこ」「ワンワンいたよ」など、2単語以上の短い文章も発するようになる。それまではひたすら、周囲の話し声を聞いて、大量の言葉をインプットしている。インプットするときはビジュアルや動き、五感とセットであることが多い。たとえば、「おてて洗おうか?」と手を触られたり、冷たい水を触った時に「水冷たいね」と声をかけられたりする。これが「て」、この動作が「洗う」、この感覚が「冷たい」と、意味と言葉が同時にインプットされていく。
一方、第2外国語を学ぶときは、最初にテキストから入る場合が多い。テキストで単語や文章を学び、意味をネイティブ言語で調べる。第2外国語の単語を聞いても、ビジュアルも温度も音も匂いも感じないが、ネイティブ言語に訳した途端にこれらが呼び起こされる。意味が五感とストレートにリンクしているのがネイティブ言語、リンクしてないのが第2外国語だ。
外国語の文章を聞いた時、一度ネイティブ言語に訳していたら、時間もかかり、言いたいことも咄嗟に言えない。大人になってから新しい言葉を学ぼうとすると、どうしてもネイティブ言語で意味を確認してしまい、新しい言語と五感のリンクを作れない。
第2外国語では、意味だけでなく、発音も、ネイティブ言語に変換してしまいがちだ。聞こえたままに発音すれば良いのだが、ネイティブ言語の音に変換して発音してしまいやすい。いわゆるカタカナ発音である。無意識に変換してしまうので、意識して変換しないように注意しなくてはならない。
そのためには、第2外国語を言語と思わず、動物の鳴き声を真似する感覚で、発音を試みると良い。また聞いた言葉の意味を五感とリンクさせるために、ビジュアルや温度、匂い等も一緒に感じるようにすると良い。文字ばかりのテキストでは、どちらの練習にもならないので、ネイティブと話すか、動画で学ぶのが良い。
言語の習得には、赤ちゃんの脳ですら、簡単な会話ができるようになるまでに2年かかる。赤ちゃんは生まれてから2年間もずっとインプットに集中している。大人であれば、もっと長い期間が必要かもしれない。
大人になってから第2外国語を習得しようとするとき、大抵は焦りすぎている。学び始めてすぐ、文章を自分の頭で組み立ててアウトプットしようとする。インプットが十分でない状態でアウトプットすると、ネイティブ言語とのスイッチングを使ってしまう。この癖がついてしまうとなかなか取れない。スイッチングはネイティブ言語を話す時には起こらない。スイッチングを使っていると、最初は便利で、早く上達するように感じるかもしれないが、一定のところで上達が止まる。とても上手いが、ネイティブではない、というレベルで止まる。「とても上手い」と「ネイティブ」には、根本的な違いがあるので、スイッチングをどんなに練習してもネイティブになれない。ネイティブになりたいのであれば、最初から赤ちゃんと同じ学習方法を取らなくてはならない。


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