趣味活動の見つけ方

幸せ

まもなく、私のサラリーマン生活が終了する。引退後の生活を楽しくするために、趣味の世界で、新しい居場所を見つけておこうと考えた。

居場所探しに利用したのは、45歳以上のみが会員になれる趣味サイトと、外国人の利用者が多い趣味サイトの二つ。歌が好きなので、これら二つのサイトで「カラオケ」のコミュニティを探してみた。

45歳以上の趣味サイトでは、カラオケを楽しむことを目的とした「エンジョイカラオケ」、真剣に(ガチに)歌うことを目的とした「ガチカラオケ」、洋楽好きが集う「洋楽カラオケ」に登録してみた。外国人の趣味サイトでは、特にテーマのない「国際カラオケ」に登録してみた。それぞれオフ会に何回か参加してみた。この中で、最も楽しかったのは「国際カラオケ」で、最も楽しくなかったのが「エンジョイカラオケ」だった。

国際カラオケは、いろんな年齢、国籍、人種、文化的背景を持つ人が混じっていた。話す言語も様々だ。このような環境では、全員に共通する常識やマナーが生まれにくい。例えば、カラオケの楽しみ方も人それぞれだ。他の人が歌っている間は、踊ったり、一緒に歌ったり、おしゃべりしたり、食事をしたり、携帯を見ていたり、いろんな人がいた。歌う順番も自由だ。1人で何曲も連続で入れる人もいれば、遠慮して1曲ずつしか入れない人もいる。自分の常識やマナー感覚とは異なる行動に出くわしても、文化が異なるので、お互い尊重し合った。どんな楽しみ方も受け入れてもらえるので、のびのびできた。

一方、45歳以上のサイトで見つけたカラオケイベントはどれも参加者が全員日本人で、様々なマナーや暗黙のルールがあった。例えば、どのイベントも歌う順番が自然と席順通りになった。こうすれば全員が同じ曲数歌えるので不平等にならず安心だ。一方、緊張感もある。うっかり他の人を飛ばして曲の予約を入れてしまった場合は当然訂正しなければならない。訂正の仕方がわからず、モタモタしているうちに自分の曲が始まってしまったら皆に謝罪する。

他の人が歌っている間は、場を盛り上げるための発声は許されるが、関係ないおしゃべりは歓迎されない。他の人が歌っている最中に、トイレやドリンクバーに行くのも歌い手に失礼とされる。確かに、自分の歌の番になった途端にカラオケルームから人が減ったら寂しい。ただ、興味のない曲や下手な歌は聴きたくないので、部屋を出たり、おしゃべりをしたり、携帯を見て時間を潰したくなる気持ちもわかる。ここでは歌い手の気持ちが尊重され、どんな歌もじっと我慢して聴くのが礼儀となっている。

選曲も、自分の好きな曲ばかり歌うのではなく、他の参加者の好みに合う曲もある程度混ぜなければ、自己中心的と思われる。45歳以上の趣味サイトで見つけたコミュニティでは、どこも皆、古い曲ばかり歌っていた。私は最新の曲が好きなので、初めて参加したイベントでは最新の曲ばかり歌った。後から聞いた話だが、他の参加者が、私のいないところで、私のことを「最初から最後までああいう曲で突っ走るのすごいね。」と言っていたらしい。もちろんポジティブな意味ではない。怖い世界である。2回目のイベントからは、古い曲も少し歌うようにした。

これらのルールは明文化されていない。空気を読んで気づかなければならない。誰かが堂々とルールを破ると、自分の常識が間違ってるのだろうかと不安になり、本人がいないところで他の人と確認し合う。そして、自分の常識は間違ってなかったと確信すると、その常識を破った人は「おかしい」と判定され、次回から誘われなくなったり、参加を承認してもらえなくなったりする。

暗黙のルールの中には、全員が認識しているものもあれば、7〜8割位の人しか認識してないものもある。認識している人にとっては当然だが、そうでない人には全くわからない。自分だけが気づいていないルールがあるかもしれないので、常に緊張感がある。

日本人を批判しているわけではない。同じ属性の人が集まれば、その属性での「常識」があり、それを破ると「なぜ?」となる。例えば、「女性なら普通こうする」「社会人なら普通こうする」と言った思い込みが暗黙のルールを生む。国際カラオケでは参加者の属性がバラバラなので、そういった共通ルールが生まれない。

「洋楽カラオケ」は、参加者は全員日本人だが、海外生活経験者や、海外に興味のある人が多く、「国際カラオケ」にやや近く、比較的ルールが緩かった。また洋楽が好きな人は、バンド経験があったり、純粋に音楽が好きな人が多い。カラオケを「音楽」として捉えているので、宴会のように無理に盛り上げなくてよい。これは「ガチカラオケ」にも言える。「ガチカラオケ」は歌うことが好きで、イベントのためにしっかり歌を練習してきた人たちが集まっている。敬意を持って他の人の歌を聴くことさえ守れば、盛り上げる努力はする必要ない。

一方、「エンジョイカラオケ」では、みんなで楽しく盛り上がることが強く求められた。盛り上げるために、誰もが知っているメジャーな曲や、ノリのいい曲を歌い、笑顔でわかりやすく盛り上がっていることが歓迎された。ここでの誰もが知っているメジャーな曲は、昔大ヒットした昭和歌謡やシティポップで、私が苦手なジャンルだ。気分はちっとも盛り上がらなかったが、楽しいフリをしなくてはならなかった。さらに、参加者は全員、バブル世代以上なので、その盛り上がり方にバブル時代特有の文化が残っており、それも私には合わなかった。

バブル時代、会社には男性が圧倒的に多かった。まだ女性の社会進出が進んでおらず、寿退社する女性が多いため、会社にいる女性はほとんどが独身で若いOLだった。会社の飲み会も多く、飲み会の二次会は大抵がカラオケだった。

酔っ払った男性多数と少数の若いOLでカラオケに行ったら、男性はどうなるか。普段職場では業務の話しかしない男性が、宴会では自分が男性であることを意識させようとしてくるのだ。あからさまなボディタッチや発言は問題になるので、そうならない範囲で、「俺は男、お前は女」というメッセージをチラチラと送ってくる。

例えば、ねっとりとした歌詞のラブソングや、デュエット曲を選んで歌うなどだ。女性は社歴が浅く地位も低かったのでデュエットを誘われたら無下に断れない。それを嫌な顔せずさらっと受ける女性が、気の利く良い女性像とされ、社内での評価も上がった。中には、自分の評価を上げるために、「1人で歌うの恥ずかしい」などと言って、自らデュエット曲を入れる女性もいた。バブル時代のカラオケでは毎回のようにおじさんと若いOLのデュエットを聴いた。

「エンジョイカラオケ」でも、参加者の女性が「オヤジの心に灯った小さな火」という、若い女性アイドルと中年男性のデュエット曲を入れ、参加者の男性の1人に男性パートをお願いしていた。歌詞の内容は、中年オヤジが若い女性に猛烈アピールし、何度断られても追いかけ続ける、という恐ろしいものだ。宴会用に盛り上がるように作られたようなキャッチーなノリの曲だ。程度の差こそあれ、同様の経験をして、恐怖を感じたことがある女性は少なくないはずだ。この歌詞を聞いて笑ったら、この行為が笑って許されるものになってしまう。私はこの曲を一切笑わずに、真顔で聞き流した。

別の女性がラブソングを歌った。場を盛り上げるため、女性は歌いながら隣の男性に告白するようなポーズをとった。男性がそれに応えて、両手を差し出すポーズをとった。皆笑っていたが、私は虫唾が走った。

さらに、60代後半男性の主催者がセクシーな歌を歌い出した。その曲は1970年代に女性歌手が下着のような衣装でセクシーに踊りながら歌っていたものだ。皆を笑わせようと女のような高い声で歌っていたが、気持ちいいものではなかった。笑っていない私を見つけた主催者は私の目の前に来て、セクシーな表情を作って踊り出した。全員が私の反応を見守っている。全員から「盛り上がれ」という圧を感じ、私は笑うしかなかった。60代男性は、笑顔になった私を見て喜んだ。この男性は自分がセクハラをしていることに気づいていない。周りの同年代の女性達も笑った。彼女達も笑うことで、セクハラに加担していることに気づいていない。場を盛り上げるために正しいことをしていると思っている。私が若いOLだった頃のカラオケがフラッシュバックしてきた。

バブル時代、カラオケの席順は、男性ばかり固まらないように女性は散らばせられた。若い新卒男性の中には、上司に気を遣って、女性達に「誰か〇〇部長の隣に座って」などと、指示してくる人もいた。これらが当たり前に行われていたので、女性も慣れてしまい、指示される前に率先して動いたり、先輩女性が後輩女性に席を指示することもあった。そうすることで、自分は気の利く女であるとアピールし、自己肯定感を高めていた。「エンジョイカラオケ」では女性の数が多かったので、席順は自由だった。ただ、女性が多いのは偶然ではなく、男性主催者が男性からの参加申請を制限し、女性が多くなるようにコントロールしたとのことだった。

バブル時代のカラオケは、会社の上層部にとってはとても楽しかっただろう。隣に若い女性が座ってくれて、ニコニコお酌してくれて、話を聞いてくれて、一緒に歌も歌ってくれる。女性はそれを難なく受け入れることで、社内の評価が上がるので、我慢して頑張る。「エンジョイカラオケ」の主催者は、あの頃のカラオケを復活させ、再度経験したいのだろう。そして同年代の女性参加者は、バブル時代に染みついた文化が抜けず、自然とそれに協力してしまっていた。

今回参加した4つのカラオケコミュニティは、同じカラオケでも、全く雰囲気が異なった。趣味の内容よりも、参加者の属性の方が、趣味を楽しめるかどうかに影響が大きい事がわかった。趣味の内容はさほど重要ではない。趣味のコミュニティを探す際には、内容ではなく参加者の属性で選んだ方が自分に合ったものが見つけやすい。

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