幼馴染とまた仲良くなりたい

幸せ
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裏の窓を開けると、ほんの1メートル先に幼馴染のヒロミちゃんの家がある。ヒロミちゃんとは、幼稚園から中学校まで一緒だった。今はお互いアラカンになった。ヒロミちゃんも私も独身で、ずっと同じ場所に住んでいる。

幼稚園のアルバムを見ると、私はいつもヒロミちゃんと一緒にいる。遠足で一緒にお弁当を食べ、お祭りで一緒にお神輿を担ぎ、ヒロミちゃんのお兄ちゃんやご両親と一緒にハイキングにも行っている。ヒロミちゃんも、ヒロミちゃんの家族も、穏やかで、明るくて、気前がよく、一緒にいて心地よかった。

でも仲が良かったのは、幼稚園までだ。小学校に入ってからは一緒に遊ばなくなった。ヒロミちゃんと仲が悪くなったわけではない。私は、小学校で、アキちゃんという別の女の子と急速に仲良くなってしまったのだ。今思うと、ヒロミちゃんは、私がアキちゃんと仲良くなってしまったことで、寂しい思いをしていたかもの知れない。でも当時の私はそんなことを全く考えられなかった。そして、小学校以降の写真には、ヒロミちゃんの姿はもうない。

私はヒロミちゃんが小学校や中学校で誰と仲が良かったのか、中学卒業後、どの高校に行き、どこに就職したのかも知らない。こんなに近くに住んでいるのに、何も知らない。

でも、私の家の裏にずっと住んでいることは知っている。裏の窓を開ければ、ヒロミちゃんの家の明かりが見え、水道が流れる音がし、ヒロミちゃん家族が生活する気配が感じられた。

お互いすっかり成人した頃、ヒロミちゃんのお兄ちゃんの姿を見かけなくなった。おそらく就職か結婚をして家を出たのだろう。

ヒロミちゃんの家のベランダと、うちのベランダは2階にあり隣接していたので、天気が良い日には、洗濯物を干すタイミングが重なり、ヒロミちゃんやヒロミちゃんのお母様と顔を合わすことがあった。「おはよう」「天気いいね」などと簡単な挨拶をした。お互い同時期に犬を飼っていたことがあり、洗濯物を干すときはどちらの犬もベランダについてきていた。犬同士がベランダの柵越しに牽制しあって吠え出すと、「こらこら」とお互いの犬を宥めて笑った。でもそこから深い話に発展することはなく、洗濯物が干し終わったらお互い静かに家の中へ戻っていった。

アラサーになった頃、ヒロミちゃんは太り始めた。穏やかで、のんびりしているヒロミちゃんらしい。ヒロミちゃんには、競争心や、承認欲求がほとんどない。いつ見ても、全く人の記憶に残らないような無難な服装をし、学校の成績や体育、部活、どれをとっても抜きん出ることもなければ、落ちこぼれることもなかった。いつも、のんびりしていて、無理な努力はしない。

一方、私は、ストイックで自分に厳しい。学校のテストでは満点を目指し、食事や健康に気をつけて、理想体重を長年維持している。ファッションも誰よりも早く流行を取り入れていた。他の人にとって、私といると新しい情報や刺激は得られるかもしれないが、ヒロミちゃんといるときのような安心感は得られないだろう。

お互いアラフォーになった頃、私の父が亡くなり、ヒロミちゃんはお葬式に来てくれた。私は深い悲しみの中、多くの参列者への挨拶や葬儀業者とのやりとり等で忙しく、ヒロミちゃんと言葉は交わさなかった。

アラフィフになった頃、ヒロミちゃんのお母様を見かけなくなった。天気のいい日にベランダで洗濯物を干していても、ヒロミちゃんのお母様に会うことがない。ある日、母から、ヒロミちゃんのお母様は、家の階段から転落して背骨を骨折し、起き上がることができず、寝たきりになっていると、聞いた。数ヶ月前まで近所を元気に歩いている姿を見ていたので、びっくりした。私の母も階段には気をつけるようにしなくてはと思った。

その後、ほどなくしてヒロミちゃんのお母様は、亡くなった。この時私は、家の建て替えのため、隣町に仮住まいしており、ヒロミちゃんのお母様が亡くなったことをすぐには知ることができなかった。後から知って、お香典を持っていったが、ヒロミちゃんは留守で、ヒロミちゃんのお父様に渡した。

家を建て替えてからは、ヒロミちゃんとベランダで会うことは無くなった。私の新しい家は3階建てで、2階にベランダがない。最近気づいたのだが、私の家が3階建てになったことで、ヒロミちゃんの家のベランダは日当たりが悪くなっていた。ヒロミちゃんから、このことについて苦情や文句を言われたことがない。気づいているが言えないのだろう。いつか私から謝りたい。

私は家を建て替える時、事前にヒロミちゃんに挨拶に行っていない。家建て替え前に、近所にはどこまで知らせるべきかを建築会社に相談しても、ネットで調べても、「向こう三軒両隣」にという言葉がお決まりのように出てきたので、思考停止してしまった。よく考えず、言葉通り、向こう三軒両隣にしか挨拶に行かなかった。でも、家の建築で、騒音や振動、埃で一番迷惑を被るのは、裏の家だ。ヒロミちゃんは、急に私の家の工事が始まり、戸惑ったに違いない。いつまで工事が続くのか、いったい何が建つのか、どんな人が住むのかわからず不安な気持ちで、工事の数ヶ月間を過ごしていたのだろう。このことについても、謝りたい。

アラカンになり、今度はヒロミちゃんのお父様が亡くなった。つい最近だ。私はお葬式に参列し、久しぶりにヒロミちゃんを見た。ヒロミちゃんは、首から足首まですっぽり隠れるような黒いワンピースを着ていた。それでも、顎の下のお肉を見ると、今も、ぽっちゃり体型であることは推測できる。そして、中学卒業して以来初めて、約40年ぶりに、挨拶だけではなく、会話をした。

ヒロミちゃんの方から、「忙しいのに来てくれてありがとう」と声をかけてくれた。ヒロミちゃんのお父様が亡くなったことは町の掲示板を見て知ったことや、今私は母の介護をしていることなど、一通り近況を知らせあったところで、ヒロミちゃんが、「アキちゃんも来てるよ」と、アキちゃんに引き合わせてくれた。

アキちゃんと私はお互いにびっくりした。アキちゃんとは小学校では仲良かったが、中学校では仲が良くなく、中学卒業後は全く連絡をとっていなかった。アキちゃんだよと言われても、ほとんど面影がない。まるで別人に見えた。私の見た目も、中学生の頃とは大分変わったのだろう。お互い、「え、本当?本当?」と何度も確認してしまった。

お父様を亡くして、悲しいはずのヒロミちゃんは、私たちに一切悲しい顔は見せず、私とアキちゃんとの会話を見守っていた。小学校に入ったばかりの頃も、ヒロミちゃんはこんな感じで、私とアキちゃんを寂しい気持ちを隠して見守ってたのかもしれない。

お葬式ではヒロミちゃんと会話したものの、お葬式後は全く会話をしていない。でも裏のヒロミちゃんの家の窓からは、時々灯りや人影が見えて、ヒロミちゃんが暮らしていることがわかる。

今、ヒロミちゃんは、かつて4人家族と犬1匹で賑やかに暮らしていた家に、たった1人で暮らしている。どう考えても、1人で住むには広すぎる。使わない部屋も多いだろう。掃除も大変だろう。ご両親の思い出も沢山残っていて、見ていて辛い時もあるだろう。私だったら、この大きな家は売って、一人暮らし用の住宅を買い、余ったお金で老後を過ごす。

ヒロミちゃんも同じことを考えてるとしたら、ヒロミちゃんは、私の家の裏から、いなくなってしまう。ヒロミちゃんとは、ほとんど会話はなかったけれど、会おうと思えばいつでも会える、いつでもまた仲良くなれると思っていた。当たり前のように、ヒロミちゃんはずっと私の近くにいる、と思っていた。そのヒロミちゃんが、いなくなってしまうかもしれない。急に不安になり、焦った。

私が家の建て替え時に、ヒロミちゃんの家への挨拶を失念したように、ヒロミちゃんも私に引っ越しの挨拶なく、いなくなってしまうかもしれない。

私は最近、ちょくちょく裏の窓を開け、ヒロミちゃんの存在を確認している。灯りが付いていないと不安になる。灯りがついていると安心する。

ヒロミちゃんと、また仲良くなりたい。仲良くなったら、ヒロミちゃんに、まず謝りたい。そして、幼稚園の頃のように、お互いの家で、ご飯食べたり、くつろぎたい。お互いの老後の生活を助け合えたらいいなとも思う。でも話しかけるきっかけがない。ベランダで会うこともない。

急に理由もなく訪ねて行ったら、びっくりされるだろう。無理に用事を作ろうにも思いつかない。ある日、急に引っ越してしまうかもしれない。そうなる前に話しかけなくてはと焦るが何もできず、今日もただ、裏の窓を開けて、ヒロミちゃんの家の灯りを確認している。

アキちゃんについてのブログはこちら

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